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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1578号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 高橋義雄

被控訴人(附帯控訴人) 国

訴訟代理人 斉藤健 外四名

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

被控訴人の附帯控訴を棄却する。

訴訟の総費用(附帯控訴により生じた部分を含む)は被控訴人の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人)---以下、控訴人と略称する---代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)---以下、被控訴人と略称する---の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、「本件控訴を棄却する。」との判決および附帯控訴として、「原判決中被控訴人敗訴の部分を取り消す。訴外高橋産業株式会社を譲渡人とし、控訴人を譲受人とする昭和三五年一二月一五日付の中古紡毛カード機一台(訴外大和毛織株式会社から購入したもの)の譲渡契約を五万七、〇二七円の範囲で取り消す。控訴人は被控訴人に対し五万七、〇二七円およびこれに対する昭和四〇年四月二三日から右金員支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。附帯控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、控訴人代理人は、「本件附帯控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決事実摘示中二(一)請求の原因(1) のうちに「送達」とあるのは「送付」の同二〇請求原因に対する答弁の欄三行目「昭和三五年」とあるのは、「昭和二五年」の同二国被告の抗弁(2) のうち「淀橋税務所」とあるのは「淀橋税務署」の誤であるから、そのように訂正する)。

一  控訴人代理人は、次のように述べた。

1  被控訴人の高橋産業株式会社(以下、高橋産業と略称する)に対する昭和三四年四月一日から翌三五年三月三一日までの事業年度の法人税および過少申告加算税徴収権(以下、本件租税債権と略称する)が仮に昭和三五年一二月一五日当時存在していたとしても、その法定納期限である昭和三五年五月三一日の翌日である同年六月一日から五年を経過した昭和四〇年五月三一日の経過とともに時効により消滅した。蓋し、国税通則法七二条によれば、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から五年間行使しないことによつて時効により消滅し(一項)、右権利の時効についてはその援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする(二項)と規定されているところ、前記租税債権が国税の徴収を目的とする国の権利に該当することはいうまでもないからである。

2  原判決事実摘示中二(三)(2) のうち、「本件機械が譲渡されたこと」とあるのを「解散年度決算報告書の付属明細表IIの4の明細に記載された資産が譲渡されたこと」と改める。

3  仮に解散年度決算報告書に添付された法人税確定申告書が淀橋税務署長に提出受領された昭和三六年二月二八日に被控訴人が取消の原因を覚知したということができないとしても、被控訴人は、おそくも昭和三六年四月一五日以前に取消の原因を覚知したものである。すなわち、東京国税局徴収部徴収課から淀橋税務署に派遣され、高橋産業等の滞納処理に従事していた国税徴収官沢田正次は、同年四月一五日以前に法人税確定申告書を了知し、これにより取消の原因を覚知した。したがつて、その後二年を経過した昭和三八年四月一五日以前に取消権は時効によつて消滅した。

4  被控訴人の後記二1の主張事実のうち、(一)の被控訴人主張の納税告知書がその主張の当時高橋産業に到達したことは認めるが、同日の督促に関する主張は不知、同日の一部納付に関する主張事実のうち(イ)、(ロ)、(ハ)、記載の各納付の事実は認めるが、(二)高橋産業が本件租税債務につき昭和三七年一二月四日納付した金額は三万円ではなく二万円に過ぎない。同(四)の捜索に関する主張事実中高橋産業が被控訴人主張の当時解散し、武井恒治がその清算人に就任していることは認めるが、高橋産業がその全資産を控訴人に譲渡したことは否認し、その余は不知。仮に、被控訴人主張のように、松浦が本件租税債権を徴収するため差押処分をなすべく武井恒治の住居内を捜索したとしても、捜索は差押自体ではなく、差押の前提となり得べき行為に過ぎないから、捜索の結果財産を発見し得たか否かに拘らず、捜索自体によつて時効中断の効力が生ずるものではないと解すべきである。したがつて、本件秘税債権の時効が前記二万円の税金納付の事実によつて昭和三七年一二月四日中断されたとしても、昭和四二年一二月四日の経過とともに右租税債権は時効により消滅したことになる。

5  被控訴人は、「法人税の確定申告書ならびにその付属書類である決算報告書の提出により税務署長が詐害行為のあつたことを覚知したといいうるためには、税務署の組織上これらの書類が租税債権の徴収事務を担当する部門に属する徴収職員によつて調査検討されることを要する。」と主張する。しかし、右確定申告書および決算報告書は事務手続上当然には徴収職員へ回付されることになつていないのであり、もし被控訴人主張のとおりだとすれば、税務署長が前記のように納税義務者の全財産が他に譲渡され、その結果国の右義務者に対する債権が害されることのわかる決算報告書を受理しているに拘らず、これが徴収係に回付されないため、詐害行為取消権の時効が進行を開始しないこととなるのであり、その結果が不当なことは明らかである。そもそも、法人税に関する申告、賦課、徴収等は税務署長がこれを担当するのであるから、たとえ税務署内部において租税に関する事務が各係に分掌されているとしても、対外的には税務署が一体のものとして観念されるべきであり、従つて、高橘産業が昭和三六年一月二八日その所轄税務署長たる淀橋税務署長に対し、昭和三五年四月一日ないし同年一二月三一日事業年度の所得金額、法人税額の確定申告書および前記のような内容の解散年度決算報善書を提出し受理された以上、淀橋税務署長したがつて被控訴人としては同日詐害行為取消の原因を覚知したものと解するのが相当である。

二  被控訴人代理人は、次のように述べた。

1  被控訴人の高橋産業に対する本件租税債権が国税の徴収を目的とする権利であり、その法定納期限が昭和三五年五月三一日であることは認めるが、本件穣税債権の消滅時効は、次の事由によりそれぞれ中断しているから、消滅時効は未だ完成していない。

(一)  淀橋税務署長は、昭和三五年一一月二八日本件租税債権につき、納付期限を同年一二月二八日と指定する納税の告知(国税徴収法旧四二条)をなし、同告知書はその頃高橋産業に到達した(国税徴収法旧一七五条一項一号)。

(二)  ところが、本件租税債権は、右告知にかかる納付期限を経過し、滞納となつたので、右税務署長はこれを徴収するため昭和三六年一月一七日督促状を発し、同督促状はその頃高橋産業に到達した。

(三)  その後高橋産業は本件租税債権につき、(イ)昭和三六年七月二一日二万五、〇〇〇円、(ロ)同三七年五月一二日二万円、(ハ)同年七月一六日二万円、(二)同年一二月四日三万円をそれぞれ一部納付した。

(四)  高橋産業は、昭和三五年一二月一五日金資産を控訴人に譲渡したうえ、解散し、以後武井恒治が清軍人に就任し清算中のものであるが、淀橋税務署国税徴収官松浦正宏は、昭和四二年一一月二八日、本件穣税債権を徴収するため、差押処分をなすべく、右武井恒治の住居内を捜索したが差し押えるべき財産を発見することができなかつた。国税の徴収職員(国税徴収法二条一一号)が滞納処分のため滞納者所有の財産を差し押えるべく滞納者の住所、その他の場所を捜索(国税徴収法一四二条)した場合には、これによつて滞納者の財産の差押に着手したものというべきところ、高橋産業は倒産後、その事務所もなく、会社としての実体がなかつたので、清算事務が執られたとみられる清算人の住居を捜索したのであるから、たとえ差し押うべき物件を発見できなかつたとしても、これにより時効中断の効力を生じたものと解される。清算人は、清算会社の財産を管理する職責上、滞納会社に帰属する財産を前記のような事情から、その住居に保管することが十分考えられるので、その住居を国税徴収法一四二条一項に基づいて捜索することはなんら違法でない。

2  控訴人は、高橋産業の法人税の確定申告書および解散事業年度分決算報告書が淀橋税務署長に提出された昭和三六年二月二八日において、被控訴人が詐害行為取消の原因を覚知したと主張する。しかし、法人税の確定申告書(その添付書類である決算報告書を含む。以下同様。)は、申告納税制度に基づき、納税者がみずから法人税法の定めるところにより法人税の課税標準額および税額を計算のうえ確認し、これを税務官庁に対し通知(申告)するものであり、これを受理する税務官庁にあつても、右申告書に関する調査は、当該申告にかかる事業年度における課税標準たる所得金額の計算についてのみ検討がなされるものであるから、仮に、右申告によつて財産処分の事実を知つたとしても、当該処分財産の処分価額が妥当に計上されているかどうかについて検討がなされるのであつて、その処分行為が詐害行為に該当するか否かというようなことは、徴収上の観点から観察することはない。納税義務者から税務署長に対し法人税の確定申告書が提出されると、その調査すなわち更正の要否についての賦課の実質的調査は、法人税課法人税第一係、同課法人税第二、第三係において実施されるのである。したがつて、被控訴人が右確定申告書の提出を受けて、詐害行為のあつたことを覚知したといいうるためには、税務署の組織上、主管部門である法人税課において調査検討されただけでは足りず、これらの書類が穣税債権の徴収事務を担当する部門に属する徴収職員によつて、もつぱら租税債権の徴収上の観点から調査検討されることを要するものである。そして法人税の確定申告書は、主管部門である法人税課において調査の完了後、徴収事務を担当する部門に回付されるものではなく、各納税者ごとに一括編てつのうえ保管されているものであるから、徴収部門に属する担当職員は、特に必要があつて閲覧する以外には、右法人税の確定申告書をみることはない。

3  原判決事実摘示中二(四)(3) を「(3) の抗弁事実のうち、被告主張の当時その主張のような相殺の意思表示がなされ、その主張の当時その主張のような二次納税義務者としての納付通知があつたのち、その取消がなされた経過は認めるがその余は争う。被告の原告に対する還付請求金および還付加算金債権は、その合計額において被告主張のとおりではなく、これを本件請求権と相殺する余地がない(国税通則法九四条)。」と改める。

三  証拠〈省略〉

理由

一  本件租税債権の発生

被控訴人が高橋産業の昭和三四年四月一日から同三五年三月三一日までの事業年度の法人税に関し、同年一一月二八日法人税額を四八万一、一四〇円、追徴税額を四〇万六、八三〇円、過少申告加算税額を二万〇、三〇〇円とする更正の通知書およびその納期限を同年一二月二八日と指定した納税告知書を高橋産業に送付し、右通知書等がそのころ高橋産業に到達したことは当事者間に争いがない。そして、〈証拠省略〉によれば、昭和三五年一二月一五日当時高橋産業の負担する右債務額は、附帯税を含め四五万一、二四六円となつていたが、その後更に弁済等によつて三二万九、〇九六円に減少したことは被控訴人の自認するところである。

二  本件租税債権につき消滅時効は完成していない。

被控訴人の高橋産業に対する本件租税債権は国税の徴収を目的とする権利であるから、国税通則法七二条同法附則二条による五年の消滅時効期間が、右租税債権の法定納期限である昭和三五年五月三一日(このことは当事者間に争いがない)から初日を算入しないで進行を開始したものであるというべきである。しかし、被控訴人が昭和三五年一一月二八日高橋産業に対し更に本件租税の納期限を同年一二月二八日と指定し、その頃その旨の納税告知書が高橋産業に到達したことは、冒頭において述べた通りであるから、本件債権の消滅時効は、右告知の効力を生じた昭和三五年一一月二八日頃から納付期限である同年一二月二八日まで中断したというべきであり(昭和三七年四月法律六七号による改正前の国税徴収法一七五条一号)、次に被控訴人が前記二1(三)に主張する本件租税債権に関する高橋産業の各一部納付の事実中(イ)、(ロ)、(ハ)、についてはいずれも当事者間に争いがなく、(ニ)の主張事実中すくなくとも二万円の納付があつたことについては、これまた当事者間に争いがないから、高橋産業はその都度本件租税債務を承認し、これにより昭和三六年七月二一日、昭和三七年五月一二日、同年七月一六日および同年一二月四日の各回に夫々本件租税債権の消滅時効は中断したものというべきである。さらに、その方式および趣旨により公文書として真正に成立したものと推定すべき〈証拠省略〉によれば、淀橋税務署国税徴収官松浦正宏が昭和四二年一一月二八日本件租税債権を徴収するため、差押処分をなすべく東京都北区上中里町一丁目二六番一一号高橋産業の清算人武井恒治の住居内を捜索したが、差し押えるべき会社財産、関係帳簿書類を発見することができなかつたことを認めることができる。してみればたとえ差し押うべき物件を発見できなかつたとしても、右捜索によつて高橋産業の財産差し押えに着手したものというべく、本件租税債権の時効は、昭和四二年一一月二八日中断されたものというべきであるから一本件租税債務の時効は未だ完成していないといわなければならない。

三  本件機械譲渡の詐害性

被控訴人が「本件機械は、高橋産業が昭和三五年一二月一五日他の積極財産とともに控訴人に譲渡した」と主張するのに対し、控訴人は右の事実を否定し、「本件機械は高橋産業解散後、控訴人が高橋産業の清算人の代理人として他に転売した事実があるに過ぎない」と争うから、按ずるのに〈証拠省略〉によれば、控訴人が昭和三五年一二月二二日高橋産業から計二五三万六、六六四円相当の商品、車輌運搬具、売掛金、当座預金等その全資産を譲り受けたことおよび右資産のうちには本件機械の含まれていたことが認められる。原審および当審における控訴人本人の各供述中右認定に反する部分は〈証拠省略〉に照らして採用することができず、他に右認定を動かすだけの証拠はない。

ところで被控訴人は本件カード機一台の譲渡の年月日を昭和三五年一二月一五日と主張し、右に認定した同月二二日とは若干距りがあるが、弁論の全趣旨に照すと両者に同一性があり、被控訴人の主張には結局同月二二日の全資産譲渡、従つて本件カード機の譲渡が含まれているものと解されるので、これについて検討を続けることとする。

控訴人は「本件機械については高橋産業がこれを大和毛織株式会社(以下大和毛織と略称する)から買い受けるに際し代金全額支払いずみまでその所有権を大和毛織に留保する旨の特約があり、仮に控訴人が高橋産業からこれを譲受けたとしても、当時代金は未だ全額支払いをおわつていなかつたから、本件機械は大和毛織の所有に属しており、高橋産業の一般財産に属していなかつたので、これを譲渡することは詐害行為にあたらない」と抗争するが〈証拠省略〉によれば、昭和三五年一二月二二日に高橋産業は大和毛織株式会社に本件機械代金は完済し、本件機械の引渡をうけたことが認められる。そして、前記の通り控訴人が高橋産業から右機械を譲受けた日も同日であるが、特段の事情のない本件においては高橋産業が大和毛織からその引渡を受けてから、更にこれを控訴人に譲渡したと解するのが自然であり、してみれば、その時には既に高橋産業が本件機械の所有権を取得していたことは、右に述べたところがら明らかであるから、控訴人の右抗弁は理由がない。〈証拠省略〉ならびに前記争いのない各事実を考えあわせると、高橋産業は前記通知書および告知書の送達を受けると、そのころ会社を解散して会社の全資産を控訴人に譲渡しようと企て、右資産を処分すれば本件租税債権が履行できなくなることを知りながら、当時時価五〇万円以上の本件機械を含む高橋産業の二五三万六、六四円相当の全資産を前記のとおり控訴人に譲渡して無資力となつたことが認められ、たとえ〈証拠省略〉に記載されている如き金三八二万一、八九八円の会社債務を控訴人において引受けたと仮定しても、租税債務を除外していることは〈証拠省略〉により明らかであつて、かくの如きは、租税債権を害する目的で会社財産全部の有償譲渡をうけたというほかはない。そればかりでなく〈証拠省略〉の三八二万一、入九八円の負債はあらかた控訴人自身の会社に対する債権であるというが、その裏付けもないので、たやすく措信できず、他に右の会社債務の存在を肯認できる証拠もない。そうであるとすれば、高橋産業と控訴人との間の本件機械の譲渡行為は被控訴人の債権を害する詐害行為に該当するといわなければならない。

四  詐害行為取消権は時効によつて消滅した。

控訴人は、先ず、高橋産業が昭和三六年二月二八日淀橋税務署長に対し提出した解散年度決算報告書によつて、被控訴人は同報告書付属明細表IIの4の明細に記載された資産が譲渡されたこと、ならびに、右譲渡により当時の高橋産業には資産がなくなり被控訴人の有する債権が害されることを覚知したから、それより二年の経過により取消権は時効により消滅したと主張する。高橋産業が昭和三六年二月二八日淀橋税務署長に対し解散年度決算報告書を提出したことは当事者間に争いがない。

ところで、会社が解散した場合当該会社は二か月以内に所轄税務署長に対し解散年度の決算に基き確定申告書を提出することが、法規上義務づけられているのであつてこのことは、税務署長が遅滞なく右書類を閲読することを要求されているものと言わねばならない。そして右の書類を少しく調査すれば、会社が租税債務をそのまま放置して会社代表者に全資産を譲渡したこと、従つてそれが租税債権を害することが判明する場合には、税務署長は確定申告書類提出の日に詐害行為の原因を覚知したものと解することが、公平上相当というべきであつて税務署内部の事務の分掌により、その後に至つて右の事実を知るに至つたからと言つて、右の見解を左右するものではない。そればかりではなく、〈証拠省略〉によれば、国税徴収官沢田正次は、昭和三六年二月二日頃電話で控訴人に高橋産業の件で出頭を促した際同人から高橋産業が解散したことを聞知して解散の時期と清算人の氏名とを控訴人から聞いたことが認められるから、まもなく解散年度決算報告書が提出されることを予知したものと考えられる。そして〈証拠省略〉によれば、高橋産業の前記解散年度の決算書類は同年二月二八日に淀橋税務署に提出され、同署において高橋産業等の滞税処理にあたつた国税徴収官沢田正次が同年三月下旬もしくは四月上旬に高橋産業の経理を担当していた平松彰から事情を聴取するについて、予め前記解散年度報告書の綴り込まれた書類綴を調査検討済みであつたことが認められる〈証拠省略〉。又〈証拠省略〉によれば沢田国税徴収官は前記解散年度決算報告書に高橋産業がその全資産を控訴人に譲渡した旨の記載があるのを知り、控訴人が個人名義で会社財産を隠匿している事はないかと疑い、同年四月八日控訴人共有名儀の建物のあることを知り、その建物の登記簿謄本の交付を受けたことが推断されるので、これらの事実に照らすと、沢田国税徴収官したがつて被控訴人は昭和三六年四月八日以前に控訴人が淀橋税務署に提出した解散年度決算報告書によつて本件詐害行為取消原因を覚知したものと認めることができる、原審および当審における〈証拠省略〉中前認定に反する部分は採用することができず、他に認定を動かすだけの証拠はない、そうとすれば、沢田国税徴収官したがつて被控訴人が昭和三六年四月二〇日取消原因を覚知したことを前提とする被控訴人の再抗弁について判断するまでもなく、本件詐害行為取消権は、昭和三八年四月八日以前に時効によつて消滅したといわなければならないから、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく全部失当として排斥を免れない。

五  むすび

よつて、以上と異なる判断のもとに被控訴人の控訴人に対する請求を一部認容した原判決は、そのかぎりにおいて不当であるから民訴法三八六条を適用してこれを取り消し、右の限度において被控訴人の請求を棄却すべく、被控訴人の請求を棄却したかぎりにおいて原判決は正当であつて附帯控訴は理由がないから同法三八四条一項に従つてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法八九条、九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 室伏壮一郎 園部秀信 森綱郎)

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